会社の資産と経営者個人の資産の区分が曖昧になりがちな中小企業では、外部関係者からの信頼を高めるための第一歩として、会社と経営者個人の資産を明確に区分・分離することが重要です。そのための具体策としては、①経営者個人が所有する資産が会社の業務に使われている場合、賃貸契約書を作成して会社から経営者へ適切な賃料等を支払う②事業に使っている経営者個人の資産はできる限り会社所有とする――などが挙げられます。
また、「経営の基本」である現金管理も、会社と経営者個人の資産を区分するための重要な対応策となります。次のような対応が自社で徹底できているか見直してみましょう。
〇小型の金庫やコインカウンター等を用いて、会社と個人の現金が混ざるのを防ぐ
〇現金出納帳と実際の現金の残高合わせを毎日行う
〇クレジットカードは会社用と個人のカードを分けて使う
〇立替金および経営者への仮払金や貸付金は、早めに精算する
経営者にとって、経営意思決定の大きな「拠りどころ」となるのが「変動損益計算書」です。変動損益計算書とは、売上高の増減で変化する費用を変動費に、売上高にかかわらず発生する費用を固定費に分類して表示した損益計算書のことです。通常の損益計算書に比べ、変動損益計算書は売上が変わった時のシミュレーションが簡単で、例えば「売上増に伴って新しく従業員を採用した場合、利益がいくら変わるのか?」といった経営上の判断をする時に役立ちます。
そして、変動損益計算書の大前提となるのが、正確な月次決算データです。そのためには、①適時・正確な記帳②証憑の整理や仕訳入力等を自社で行う「自計化」③請求書や経費精算の徹底管理――の3つのポイントを押さえましょう。月次決算を徹底し、変動損益計算書で自社の経営状態をタイムリーかつ正確に把握することで、問題点等に迅速に対応できるようになります。
令和6年1月1日から、贈与税と相続税のルールが大きく変わります。贈与税には2つの制度があり、1つは「暦年課税制度」、もう1つは「相続時精算課税制度」です。令和6年1月1日以降の各制度の改正内容は、次の通りです。
①暦年課税制度
〇相続開始前7年以内の贈与額を相続財産に加算して相続税を算出(納付した贈与税額は差し引く。加算期間は順次延長)。
○延長した4年間(相続開始4~7年前)に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算しない。
②相続時精算課税制度
○現行の暦年課税の基礎控除とは別途、110万円の基礎控除が創設。
〇贈与した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時に評価額の再計算が可能。
損益がトントン、経常利益がゼロになる点(限界利益=固定費)を「損益分岐点」といい、そのときの売上高を「損益分岐点売上高」(固定費÷限界利益率)といいます。現状の損益分岐点を捉えておくことで、利益アップにつながるさまざまなシミュレーションが可能です。
例えば、賃金アップなど固定費が増加しても、いくら売上(販売単価×販売数量)があれば黒字にできるか、あるいは、目標利益を達成するために必要な売上高はいくらか、などを求めることができます。目標とすべき売上高がわかれば、どのように販売を伸ばすかについて、集中した検討ができるようになります。
不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地や、所有者の所在が不明で連絡がつかない土地などの「所有者不明土地」の解消に向けた制度改正が本年4月より順次スタートしています。主な制度として、以下が挙げられます。
○令和5年4月1日~:相続開始から10年経過後に行う遺産分割は、原則として法定相続分か、指定相続分によって画一的に行うことになります。この措置は施行日前に開始した相続にも適用されますが、5年の猶予期間があります。
○令和5年4月27日~:相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した土地を手放して国庫に帰属させる「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。ただし、土地の要件として、建物がある・土壌汚染がある・危険な崖にある・他人に使用されているなどの土地は除かれるうえ、負担金等の納付が必要になります。
○令和6年4月1日~:所有者不明土地発生予防の観点から、相続登記の申請が義務化されます。
インボイス制度では、適格請求書発行事業者が値引きや返品等を行ったときには、原則として返還インボイス(適格返還請求書)を発行する必要があります。そのため、代金決済の際に差し引かれた振込手数料相当額を売り手が「売上値引き」として処理する場合に事務負担が増えるとの懸念がありました。
令和5年度税制改正において、税込金額1万円未満の値引き・返品・割戻しなどの売上に係る対価の返還等については、返還インボイスの発行が免除されることになりました。一方、振込手数料相当額を支払手数料として処理する場合は、返還インボイスの発行免除の対象外の取引となるため、金融機関や取引先が発行する支払手数料に係るインボイスの保存が必要になります。ただし、課税売上高1億円以下など一定規模以下の事業者の税込金額1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で仕入税額控除を認める特例の対象になる場合は、インボイスの保存がなくても仕入税額控除を適用することが可能です。
経理業務の電子化・ペーパーレス化に取り組んでみませんか。昨今、取引先からの請求書等を電子データで受け取ることが増えていますが、今後、その電子データはそのまま電子で保存する必要があります。一方、まだまだ紙でのやり取りも多く残っていると思います。その場合は、取引先と相談して電子データでの受け取りに切り替えることや、スキャナ保存によって電子データ化することなどを検討しましょう。
経理業務の電子化・ペーパーレス化は経理業務の省力化・効率化を実現するだけでなく、経営者がよりスピーディーに業績を把握することにつながります。
現行の消費税法では、3万円未満の取引については帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例がありますが、インボイス制度開始後は、公共交通機関の運賃や自動販売機等での商品の販売など一部の取引を除いて、原則としてインボイスの保存が必要になるため注意が必要です。例えば、クレジットカードを利用した際には、店舗等が発行する「ご利用明細」や「ご利用控」を、コインパーキングを利用した際には、発行されるレシート(簡易インボイスに該当するもの)を必ず受け取って保存することを徹底しましょう。
なお、令和5年度税制改正では、一定規模以下の事業者について税込金額1万円未満の取引であれば帳簿のみの保存で仕入税額控除を認める特例措置が設けられました(期間は令和11年9月30日まで)。
国(経済産業省・金融庁・財務省)は、経営者の個人保証に依存しない融資慣行の実現の加速化を目的に「経営者保証改革プログラム」を策定しました。これに基づき金融庁は、金融機関に「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」の公表(令和5年4月以降)を求め、金融機関はこの取組方針に基づいて、融資契約を行う際に「経営者保証ガイドライン」の要件の充足状況等を説明し、経営者の個人保証の有無を伝えることになります。
経営者は「経営者保証ガイドライン」が求める①法人と経営者との関係の明確な区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保――に取り組むことで、経営者の個人保証のない融資を受けられる可能性が高まるほか、財務経営力の強化につながります。
インボイス(適格請求書)を発行するには、適格請求書発行事業者の登録が必要です。制度が開始される令和5年10月1日から登録を受けるためには、原則として3月31日までの登録申請を行わなければなりません。しかし、令和5年度税制改正において、4月1日以後の申請であっても、10月1日を登録開始日として登録されることになるなど、柔軟に対応する方針が示されました。
ただし、「登録通知書」が届くまでには、e-Tax提出で約3週間、書面提出で約1か月半を要するとされています。登録申請の意思がある方は早めに申請し、対応準備を進めましょう。
なお、登録を受けると、登録番号や公表情報等が記載された「登録通知書」が送付されるとともに、国税庁「適格請求書発行事業者公表サイト」にも掲載されます。
売上から変動費を引くと限界利益になり、限界利益が固定費より多いと黒字になります。変動費と固定費を分けることで、利益を出すためには売上がどれぐらい必要なのかを把握できます。しかし、通常の損益計算書は、支出部分を「売上原価」と「販売費及び一般管理費」に分けるため、変動費と固定費を迅速に確認することができません。ここで役立つのが支出部分を変動費と固定費に分類し直した変動損益計算書です。
この変動損益計算書を経営により活用するためには、その費用が固定費なのか変動費なのかを実情に合わせて見極めることです。業種・業態によっては売上にともなって変動する要素が固定費に含まれていることもあります。この部分を変動費として管理することで、より正しい限界利益が把握できることになります。
固定費と変動費が自社の実情に合っているかどうかを確認してみましょう。
令和5年4月1日より、中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。なお、月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日における労働時間は含まれません(法定休日での労働は割増賃金率が35%になります)。
この機会に自社の残業のあり方を見直してみましょう。非効率な残業を減らすために残業申請書を整備することや、変形労働時間制を採用するなどの方法があります。
また、明らかに所定労働時間内に終了しない業務量を与えている場合や、残業の慢性化を使用者が黙認している場合は、この機会に見直しましょう。
原材料費や仕入価格の上昇が利益に影響を及ぼしています。変動損益計算書を活用して黒字化にする方策を考えてみましょう。
自社商品の限界利益率を商品ごとに調べてみましょう。売上単価の高い「主力商品」が必ずしも限界利益率の高い儲かる商品とは限りません。売上単価よりも、限界利益率の高い商品の販売を伸ばすことで、利益の拡大につながります。
売上高を「単価×数量」の式に分解すれば、いくら売ればよいのか(金額ベース)、いくつ売ればよいのか(数量ベース)で検討することができます。変動損益計算書を商品グループ別、部門別などに分解することで、自社の利益構造もわかるようになります。
インボイス制度では、一定の事項が記載された帳簿と仕入先から受け取ったインボイスの保存がなければ、原則として仕入税額控除を適用することができません。
自社が受け取るインボイスへの対応として、仕入先が適格請求書発行事業者であるかどうかの有無、インボイスの様式や受取方法(電子か紙)についての確認などが必要です。
また、公共交通機関の運賃や自動販売機での購入のように、売手からインボイスを受け取ることが困難な取引については、一定の条件のもと帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合があります。
所得税の確定申告に向けて、申告が必要な収入や支出を確認しましょう。
①補助金や協力金は、一部を除いて収入として計上します。
②台風や地震などの災害により自宅や家財が受けた損害は、雑損控除が利用できる場合があります。
③店舗兼自宅の家賃や水道光熱費などの家事関連費は、業務上必要な部分を明らかにして、按分して経費に計上します。
④従業員や役員などサラリーマンなどの給与所得者でも確定申告が必要な場合があります。
○給与収入が2,000万円を超える
○副業収入、不動産売却収入、保険の一時金や満期返戻金などの収入
〇同族会社の役員が受け取る会社への貸付金の利子・貸付不動産の賃貸料
京セラ創業者・稲盛和夫氏は、企業は製品や技術力、生産技術、資金力などの「見える資源」だけでなく、社員の能力ややる気、知恵、逆境を乗り越える力などの「見えない資源」もあって初めて発展、成長できるといいます。
稲盛氏は人生で成功するための方程式として「人生・仕事の結果=考え×熱意×能力」を提唱しています。多少能力は劣っていたとしても、強い情熱があれば素晴らしい成果を上げられることを、過去に実感しています。さらに重要なのは考え方で、考え方がマイナスだと結果はマイナスになります。創業間もない京セラが大企業に伍して戦うことができ、急成長できたのは熱意や考え方がプラスだったからですが、そのベースとなったのが、稲盛氏自身の強い情熱と経営理念でした。変化の激しい時代だからこそ経営理念という見えない資源の価値を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
令和5年は、消費税インボイス制度と電子取引データの電子保存への対応の年です。
(1)10月1日からのインボイス制度への対応
①10月1日からインボイスを発行するためには、3月31日までに適格請求書発行事業者への登録申請を済ませましょう。
②自社が発行するインボイスを確定し、取引先に通知します。利用しているシステムのインボイス対応の確認や写しの保存方法を決めましょう。
③取引先の適格請求書発行事業者への登録の意向や登録状況を確認します。取引先が発行するインボイスを事前に確認します。インボイス受取後の仕訳計上のタイミングや保存方法についての検討が必要です。
(2)電子取引データの電子保存への対応
電子取引データの保存については、現在、宥恕措置として令和5年12月31日まで紙による保存が認められていますが、令和6年1月1日から電子取引データは電子データの保存が必要になります。自社の電子取引を洗い出し、その保存方法を決めましょう。保存には、専用のソフトウェアを利用して事務負担の軽減を図りましょう。
※対応が遅れている中小企業などに配慮して、宥恕措置終了後も、引き続き紙による保存を認める措置が検討されています。今後の法改正にご注意ください。
補助金や助成金の中には、令和5年の1~2月頃に申請期限を迎えるものがあります。活用を検討中の補助金等があれば、期限を再確認して対応しましょう。
①事業再構築補助金:第8回公募申請期限/令和5年1月13日
②IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠):申請期限/令和5年1月19日(予定)
③IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠):申請期限/令和5年2月16日(予定)
④小規模事業者持続化補助金:第11回公募申請期限/令和5年2月下旬(予定)
⑤業務改善助成金:申請期限/令和5年1月31日
※上記の情報は令和4年11月10日現在のものです。補助金等は延長、再募集されることがありますので、最新情報に注意しましょう。